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韓食日記

日々食べている韓国料理の記録です。
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これまで何万枚と韓国料理の写真を撮ってきましたが、
どうやって撮っても、美味しそうにならないのがこの料理です。
鉄板の上で、ぶつ切りにした鶏肉と野菜を炒めた料理。

……などと説明するまでもなく、タッカルビですね。

美味しそうには撮れなくとも、見た目は間違いなくタッカルビ。
オレンジ一色で、なんともビジュアル映えしない料理ですが、
食べ慣れた人なら、これでも食欲を刺激するかもしれません。

実際、目の前にあれば、まったく印象は違いますしね。
鶏肉と唐辛子の焦げる香りも手伝って、もうたまらない興奮です。

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ちなみに、炒める前の状態で撮るとこんな感じ。
火の通っていないキャベツが自分を主張しておりますが、
タッカルビらしさからは、さらに遠ざかった気がします。

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あるいは、ぐぐっと寄ってみるという手もあるのですが、
鶏肉や餅といった具が強調される一方、全体像がつかめません。
円形の鉄板をみんなで囲みながら、というのも魅力ですしね。

「タッカルビはどう撮ったら美味しそうに見えるのか!」

という難問は、いずれプロのカメラマンさんに聞いてみたいと思います。
まあ、キミの腕が悪い、というのが妥当な結論でしょうけど。

と、だいぶ余談のほうに偏ってしまいましたが……。

きちんとお店の紹介もしてみたいと思います。
新大久保でもっとも賑やかな、通称「イケメン通り」に位置し、
タッカルビよりも、むしろ店頭の屋台料理で有名な1軒。

オデンとか、ホットクとか、トッポッキなんかをつまめるので、
散策がてら、路地に面した椅子に腰掛けていく方が多いです。

もう2年前の話ですが、かつて「美女学」という番組で、
モーニング娘。と一緒に、ロケで足を運んだのがこちらの店でした。
韓国のオデンに関するクイズでご協力頂いたのですが、
いま振り返っても、あれは自分史に残る名誉な仕事でしたねぇ……。

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その頃から、いろいろな屋台料理を出していましたが、
いつの頃からか、内部をリニューアルしてタッカルビの専門店に。
いまも屋台料理のほうが目立ってはいる印象ですが、中に入ってみると、
居酒屋風のメニューが揃っていて、居心地は悪くありません。

鶏&鶏ですが、コチラがネギチキンで……。

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コチラがニンニクチキン。

骨なしのフライドチキンに、ネギ、ニンニクで味付けをしています。
ハーフサイズがあったので、2種類を注文してみました。

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タッカルビの鶏肉、野菜は4分の1ほどを残してごはんを頼み、
野菜と一緒に、ゴマ油で炒めてもらうのが定番。

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スプーンでガリガリこそげながら味わう楽しさがあります。

東京ではすっかり店が少なくなったタッカルビですが、
時折り、無性に食べたくなる瞬間があったりします。

鉄板は釜フタでなく、フチつきのほうが気分が出るなぁとか。
サリ(トッピング)の選択肢をもっと増やして欲しいなぁとか。
専門店なら個性派の具があってもいいんじゃないかなぁとか。

いろいろワガママをいえば、キリがないのですが、
当面、新大久保でタッカルビを食べたいときはココだなと。
そう思えたのは、なかなか大きな収穫でした。

もっとタッカルビを頑張る店は増えていいと思うんですけどね。

ソウルでは炒めずに、炭火焼きするタッカルビが流行の兆し。
古いタイプのタッカルビを復刻したようなアレンジですが、
逆に新しいということで、少しずつ店が増えているようです。

そういう新しさの要素を伴えば、日本でも店が増えていくかもですね。
タッカルビの再起と奮起を期待したいと思います。

店名:春川鶏カルビ
住所:東京都新宿区大久保1-15-7
電話:03-3207-4572
営業:11:00~23:00
定休:なし
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2012.03.30.Fri 23:31 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(2)
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昨日、新しい「るるぶ韓国」が発売になりました。
1年に1度の発売なので、来春まで販売することから、
「2013年度版」になっているので購入時はお気をつけください。
真ん中にドーンと出ている大きな門が目印です。

数年前から「るるぶ」の韓国シリーズに携わっておりますが、
今回の「るるぶ韓国」は、例年以上に情報が充実していますね。

もともと韓国は「るるぶソウル」と「るるぶ韓国」の2本立てでしたが、
「るるぶ釜山・慶州」を一昨年、「るるぶ済州島」を昨年から追加しました。
「るるぶ韓国」の目玉情報といえる、ソウル、釜山、済州島の3地域を、
それぞれ専門的に抑えた、というのが情報充実の背景。

そのため、今回の「るるぶ韓国」では上記3地域だけでなく、
さらなる地方をも目指して取材に力を注ぐことができました。

先日もTwitterに書き込みをしましたが、

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ソウル、釜山、済州島を中心に、水原、江華島、板門店&DMZ、
慶州、全州、安東河回村、良洞民俗村、海印寺、扶余、公州。
巻頭特集に鎮安(馬耳山)、大邱、錦山、潭陽、南原、淳昌、安城、利川、広州。
=========================

といった感じ。

僕がかかわった取材はこの中の一部ですが、
それでも昨年末に、1週間かけて韓国を大移動しました。
ブログにマッコリ画像を毎日アップしながら、
酔いどれ紀行を楽しんでいたのが、その頃の取材です。

詳細は現物を買って眺めて頂ければと思いますが、
とりあえずイメージとして、各地方の写真を載せてみます。

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大邱(八公山)。

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錦山(高麗人参市場)。

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鎮安(馬耳山)。

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全州(豊南門)。

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南原(広寒楼)。

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淳昌(コチュジャン村)。

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潭陽(竹緑苑)。

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そして、ソウル(光化門)。

風景写真ばかりですが、美味しいものもたくさん食べました。
どの地域を訪ねても、感動的な郷土料理との出会いがあるはずです。
ぜひ「るるぶ韓国」を片手に、地方を巡ってみてください。

amazon
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4533085660/
楽天
http://books.rakuten.co.jp/item/11565963/
2012.03.29.Thu 21:47 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(2)
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3月はなかなかブログが更新できませんでした。
仕事の状況が少し落ち着いたので、4月は頑張りたいなと。

これまで、だらだらと長い記事ばかりを書いていたので、
テンポよく短い記事も挟んでいこうかなとも思ったり。
まあ、書き始めると、結局長くなってゆくのですが……。

さて、まずは先週土曜日に開催された韓食ナラの報告から。

おかげさまで今回も30人ほどの方にご参加頂きました。
常連の方も、初めての方も、ご参加ありがとうございました。

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みんなで作った料理はタットリタン。

この写真は本田先生の調理見本を撮ったものですが、
ちょうどネギ投入の直後だったので、鶏が隠れてしまいましたね。
ネギの下に、鶏肉、ジャガイモ、ニンジンなどが入っています。

韓食ナラの前に、僕も自宅で作ってみたのですが、
15分ほどでパパッと作れて、メイン料理になるのはたいへん便利。
エゴマの葉と、エゴマの粉を用意する、というのがポイントですが、
これらの食材は新大久保に行くと韓国スーパーで買えます。

これらを入れることで、香りがぐっと本場らしくなる。
ということを調理しながら改めて実感しました。

今回はみなさんの調理もたいへんスムーズに進み、
タットリタンが煮えるまでの間は、マッコリ飲み放題の宴会タイム。
会場である「イドンカルビ」自慢の、オジンオボックム(イカ炒め)と、
キムチ、ナムルの盛り合わせに加え……。

※追記(2012.3.30)
当初、ナクチボックム(テナガダコ炒め)と書きましたが、
オジンオボックム(イカ炒め)だったようなので修正しました。


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新大久保の「ソウル市場」から提供頂いた新商品。
「サムゲタンの卵」もみなさまにお召し上がり頂きました。

なんとも耳慣れない商品名ではありますが、
もともと「ソウル市場」は冷凍サムゲタンで有名なスーパー。
そこにひっかけて、新たに開発したのだそうです。

卵といっても、むしろ餃子に近い商品ですけどね。

餃子と比べると生地が分厚く、もちもちとした食感が特徴で、
これをサムゲタンのスープに浮かべて味わいます。
白が塩味で、赤はキムチ味と、2種類あるのも映えますね。

店内では調理済の商品をその場で味わえるほか、
5個入りの冷凍パックが、サムゲタンの隣に並んでいます。

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タットリタンをつつき、マッコリでほろ酔いになったら
韓食ナラ恒例の、お土産紹介へと移ります。

韓国海苔を超えた韓国海苔(Pegopa)
プデチゲの素(エバラCJフレッシュフーズ)
にっこりマッコリ赤ラベル(E-DON)
禅食クッキー(サランコリア)
韓流ポスター(ケーテレコム)

こちらのお土産は全員の方にお持ち帰り頂くもの。

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そして、お土産とは別に、もうひとつ恒例の抽選会もあります。
こちらはクジ引きで当たった方に差し上げる商品です。

「スンドゥブ」など韓国料理の素シリーズ(丸大食品)
「ボストン美術館 日本美術の至宝」チケット(NHKプロモーション)
韓国海苔を超えた韓国海苔(Pegopa)

あと、ここには写っておりませんが
「ソウル市場」のサムゲタンの卵も景品に加わっています。
また、右上の雑誌3冊は僕と本田先生から提供しました。

おうちでカンタン!韓流ごはん

には本田先生のレシピが掲載されており、
「サンデー毎日」と「東京ウォーカー」は僕が新大久保記事に協力。
ハズレなしなので、みなさまにどれかが当たっています。

ご提供頂いた企業のみなさま本当にありがとうございました。

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そして、第12回の韓食ナラは5月19日(土)に開催です。
テーマとなるのは、ヤンプンピビムパプ(ボール盛りビビンバ)。

普通のビビンバでもよかったのですが、ひとひねりを加え、
各テーブル分をヤンプン(ボール)に盛り付けて、みんなでつつきます。
それぞれがスプーンを手に、わっせわっせとかき混ぜる楽しさを、
みんなで味わおうじゃないか、というのが今回の趣旨です。

ぜひみなさま、お誘い合わせのうえご参加ください。

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★第12回「八田・本田の楽しい韓食ナラ」(タットリタン)

■日時:2012年5月19日(土)15時~17時 受付:14時45分
■場所:イドンカルビ
■会費:4000円
■主催:ケーテレコム株式会社

※みんなでヤンプンピビムパプ(ボール盛りビビンバ)を作ります。
※マッコリ飲み放題、抽選会があり、お土産がつきます。
※エプロンを持参してください。
※終了後は有志で2次会も開催します。

【会場】
店名:イドンカルビ
住所:東京都新宿区新宿5-12-2
電話:03-3351-2057
最寄:新宿3丁目駅、東新宿駅より徒歩5分
http://r.tabelog.com/tokyo/A1304/A130402/13035516/

【参加申込み】
参加される方の住所・氏名・電話番号・メールアドレスまたは
ファックス番号を下記にメールしていただくか、お電話ください。

Mail: krisk1@k-telecom.co.jp
TEL : 03-6435-0899

参加費は下記口座まで事前にお振り込みください。
当日受付でのお支払いも可能ですが、参加応募多数の場合は
事前振込みをさせて頂いた方を、優先させていただきますので
あらかじめご了承下さい。

三菱東京UFJ銀行 目黒支店
普通 3819031 口座名:ケーテレコム (カ)
=========================

以上、第11回韓食ナラの報告でした!
2012.03.27.Tue 21:14 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(2)
コリアうめーや!!第265号

<ごあいさつ>
3月15日になりました。
いつの間にやら、という感じなのですが、
このメルマガは今号で11周年を迎えます。
創刊したのが2001年3月21日。
以降、1日、15日の配信になりましたので、
毎年3月15日を記念号としています。
昨年は富山で10周年のオフ会を開きましたが、
あれからもう1年かと思うと驚きますね。
そのうち気付けば、15年、20年になるのかも。
そんな日が来るまで読者皆様に感謝をしつつ、
頑張って書き続けていきたいと思います。
さて、それでは今号のテーマですが、
ちょっと古い話を引っ張り出してみました。
コリアうめーや!!第265号。
道半ばに立ちつつ、スタートです。


<タッカルビのルーツを訪ねて洪川へ!!>

先日、久しぶりにタッカルビを食べた。

タッカルビという料理は不思議なもので、
どうも無性に食べたくなる瞬間がある。
円形の鉄板で、鶏肉と野菜をピリ辛に炒め焼く料理。
シンプルながらその魅力は奥が深い。

僕が初めてタッカルビを食べたのは1997年2月。

当時の僕は大学生で、初めての韓国旅行だった。
そのときに知り合った韓国人の女の子に、
連れて行ってもらったのがタッカルビの店。

このへんの経緯はメルマガの第25号に詳しい。

第25号/あの日あの時あの人と……
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume25.htm

もう10年前の文章なので拙い限りだが、
僕にとっては、甘酸っぱい思い出のひとつ。
タッカルビを食べると、そんな青春時代を思い出す。

僕が突然タッカルビを食べたくなるのは、
そんな思い出に浸りたくなるからだろうか……。

などと、こっぱずかしいことを考えていたら、
タッカルビの記憶がたくさん湧いてきた。

時代は少し下って2003年1月。

僕はタッカルビのルーツを探るという目的で、
江原道の洪川(ホンチョン)に向かった。
実はこれまで、ある理由から封印していた話なのだが、
いい機会なので、それを振り返ってみたいと思う。


僕が初めて降り立った洪川の街は、
どこまでも薄暗い印象に満ちていた。

夕方過ぎに到着したから、という以前に、
電灯の明かりも少なく、町の規模も小さかった。
バスターミナルで目の前のタクシーに乗り、

「とりあえず最寄りの繁華街まで」

と伝えたところ、運転手は押し黙ったまま、
数メートル走って、最初の十字路で止まった。

「えーと、この道が一応繁華街でね」
「飲食店もあるし、ずっと行けば旅館もあります」
「とりあえずここでいいかな?」

僕はタクシーの運転手に謝って車を降りた。

そこは繁華街とは名ばかりの、閑散とした通り。
道の両脇にはそれなりに店舗が続いていたが、
そこに「繁」盛の気配や「華」やかさはなかった。

「むぅ……」

ただ、そんな名ばかりの繁華街ではあったが、
少し歩いただけでも数軒のタッカルビ店に出会えた。
この洪川という町が、

「タッカルビ発祥の地!」

という噂はやはり本当なのだろうか。

一般にタッカルビは春川(チュンチョン)が有名で、
なんとなくそこを本場、また発祥地とする説が語られる。
だが、一方でものの本を読むと、洪川が発祥とされており、
それが春川を経て全国に広まったと書かれている。

「どちらが正しいのだろう」

それを解決するのが洪川へ来た目的だった。
僕は薄暗い通りにいくばくかの不安を覚えつつも、
それでも期待を胸に、1軒の老舗へと足を踏み入れた。


ガタ、ガタガタ。

4枚のサッシを並べただけの簡素な入口は、
その店の古めかしさをよく象徴していた。
後に知ることだが、創業は1969年らしい。

「ひとりかい?」

店に入るとハルモニ(おばあちゃん)が声をかけてきた。
先客はわずか4名だが、店は予想した以上に狭く、
僕を含めると、店の半分が埋まってしまうほどだった。

席につくなり僕は、

「昔風のタッカルビは食べられますか?」

と尋ねた。

「僕は日本から来た旅行者なのですが」
「ここ洪川がタッカルビ発祥の地だと聞いて来ました」
「古いスタイルのタッカルビを食べたいんです」

このとき僕は「古いスタイル」を強調した。
そんな僕の顔を、ハルモニは不思議そうに眺める。

「ふうん、日本人なのによく知っているね」
「そうだよ、ウチの店がタッカルビの元祖さ」
「ウチが最初にタッカルビを始めたんだよ」

「でも昔はよかったけど、今はダメだね」
「道路が整備されたら、みんな洪川を素通りしてさ」
「最近は商売あがったりだよ……」

しかめっ面をしながら、脇のドラム缶を指差す。

「ほら、このドラム缶がそうだよ」
「これが昔、この店を始めた頃に使っていたやつさ」
「このドラム缶からタッカルビが始まったんだ」

古いスタイルのタッカルビを食べられるのか、
という問いへの答えではなかったが、店の歴史は伝わった。
洪川では確かにタッカルビの元祖を名乗っている。
まずはその事実だけでも収穫だったといえよう。

「骨なしを1人前でいいね」

ハルモニはそういうと厨房に消えていった。


ビンビールを飲みながら待っていると、
目の前の鉄板に、骨なしのタッカルビが用意された。

かつては骨つきの鶏肉を使うのが一般的だったが、
現在では食べやすい骨なしのほうが主流である。
洪川でもそれは変わらないようだ。

具は皮付きの鶏モモ肉に、キャベツ、長ネギ、
ニンジン、サツマイモ、そして韓国餅が加わっている。
これは全国どこでもよく見られるスタイルであり、
僕の求めた「古いスタイル」ではなかった。

「むむぅ……」

だが、実際に出来上がりを食べてみると、
いわゆるタッカルビとは違ったレトロさがあった。

見た目は唐辛子色に染まった赤いタッカルビだが、
食べてみると辛さは少なく、むしろ醤油が効いている。
日本酒の気配もあって、鶏の照り焼きにも近い。
鶏本来の味を楽しむタッカルビという印象だ。

「どうだい?」
「美味しいです。春川のタッカルビとは違いますね」
「そうかい、それが洪川のタッカルビだよ」
「そうですか……」

そこで僕はハルモニに尋ねる。

「洪川のタッカルビは昔からこのスタイルですか?」
「昔はもっと汁気があって鍋料理のようだったと聞きました」
「今はもうそんなタッカルビはないのでしょうか?」

そのとき僕が読んでいた資料には、
洪川のタッカルビは鍋料理風だったとあった。
いまでいうタットリタン(鶏と野菜の鍋)に近い料理。
僕が食べたかった「古いスタイル」がそれだ。

「いまは全部この骨なしのタッカルビだよ」
「こっちのほうが食べやすいからね」

僕とハルモニの会話が耳に入ったのか、
隣の席に座っていた女性客がつぶやいた。

「そういえば、昔のタッカルビはもっと汁が多かったな……」

その鍋料理風のタッカルビを食べてみたい。
そう思って、ハルモニにいくつか質問を投げかけたが、
どうにも明確な答えは返ってくることがなかった。

どんな角度から話をしても、話があちこちに飛び、
最後は、

「この店が元祖だけど、今は商売あがったり」

というところに返ってきてしまう。
洪川タッカルビのルーツはわかるようでわからず、
結局、なんの確証も得られないまま、僕は洪川を後にした。


話は以上なのである。

これで終わっては消化不良もいいとこだが、
僕がそのとき洪川で得た情報はそれだけであった。
一応、このほかでも出会った人から話を聞き、

「昔は汁気の多いタッカルビを食べていた」

という話は聞くことができた。

元祖の店で確信を得ることはできなかったが、
地元の人の話を聞く限り、それは正しい話のようだ。
洪川のタッカルビはもともと鍋料理風であった。
それだけは間違いない情報として僕の中に刻まれた。

ただ、出会うことができなかった。
また、その後の経緯もはっきりしなかった。

鍋料理のタッカルビは時代の流れとともに消え去り、
元祖の店でも、鉄板で炒めるタッカルビに変わっている。
探せば、まだどこかにやっている店はあるかもしれないが、
少なくとも2003年の僕には見つけられなかった。

そこから春川へと伝播したという話も真偽は不明。

冒頭で「ある理由から封印」などと書いたが、
それは洪川まで行って、まるで結論が得られなかったからだ。
いずれ洪川も含め、再取材をしたいと思っているが、
いまのところ、その機会には恵まれていない。

むしろ、春川市などがその間に調査を進め、
洪川説とはまた違った、春川独自の由来を発表している。

その説によれば、1950年代後半から60年代にかけて、
豚肉の炭火焼きをアレンジして春川タッカルビができたという。
この炭火焼きスタイルは、現在でも専門店が各地にあり、
タッカルビの1ジャンルとして食べられている。

このため、現在タッカルビのルーツを語る際には、
春川発祥説と、洪川発祥説の両者に触れるのが確実である。

また、洪川では鍋料理風のタッカルビが消えているが、
これとは別に、太白(テベク)では同様のタッカルビが健在。
太白式タッカルビの名で、地元や近隣の名物となっており、
全国で唯一、煮汁のあるタッカルビとして知られている。

僕はまだ太白市に行って食べたことはないのだが、
いずれ機会があれば、洪川との関係も探ってみたい。

こうして見ると、韓国のタッカルビは実に多彩で、
また興味深い謎に包まれた料理だとわかる。

「いずれ各地のタッカルビを探ろう!」

と思いつつ、現状では甚だ中途半端な内容だが、
中間報告を兼ねつつ、今後への意気込みとして書いてみた。
タッカルビのルーツを解き明かすその日まで……。

ワシワシと目の前の鶏肉にかぶりつくのだ。


<店舗情報>
店名:オクスタッカルビ
住所:江原道洪川市洪川邑新場垈里15-1
電話:033-434-3546

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
このメルマガにタッカルビは3度登場。
テーマとしては最多だったりします。

コリアうめーや!!第265号
2012年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

メールマガジン購読・解除用ページ
http://www.melonpan.net/melonpa/mag-detail.php?mag_id=000669
2012.03.19.Mon 14:33 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(0)
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またもや長らく更新を止めてしまいました。
切羽詰まった仕事が多かったのと、確定申告が大きな要因です。
なんとか確定申告と、直近の仕事をひとつ片付けはしましたが、
まだまだしばらくは、忙しさの中から抜けられなさそうです。

せめて、必要なお知らせぐらいは更新をしたかったのですが、
それもままならず、関係者の皆様にはご迷惑をおかけしております。
みんないっぺんにで恐縮ですが、もろもろのお知らせをさせて頂きます。

まず、冒頭のチラシ。

フォトライターの栗原景さんとともに、江東区亀戸文化センターにて
韓国の食文化や旅の情報について講座を持つことになりました。
タイトルは……。

「ワンダフル・コリア~食・楽・探・求~」

僕と栗原さんでテーマを分担し、韓国の情報をお伝えします。
すでに募集は始まっており、定員間近になっていると聞きます。
ただ、要項を見ると、

※お申し込みは先着順ではありません。期間中にお申込みいただいた分は全て同着となります。その際、定員を超えた場合は抽選になります。

と書かれておりますね。
ご興味ある方は、締切である3月24日(土)までにお申し込みください。

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「ワンダフル・コリア~食・楽・探・求~」

【講師】コリアン・フード・コラムニスト 八田 靖史/フォトライター 栗原 景 

■内 容 : 魅惑の韓国食文化を10ケ月たっぷりご紹介!鉄道&バスで旅立つ実践情報も満載。これであなたも韓国旅行上級者!
■対 象 : 高校生以上
■期 間 : 前期 平成24年5月23日(水)~9月19日(水)  前期7回 ※今回は前期の募集です。
■日 時 : 14:00~15:30  水曜日
■受講料 : 8,000円(前期7回分)
■教材費 : 200円(前期7回分 資料印刷代として)
■定 員 : 25名 
■会 場 : カメリアプラザ 7階会議室 
■カリキュラム(予定):

<前期>
5/23 (水) 韓国の食卓風景~キムチ・発酵食品(八田)
6/6 (水) 韓国鉄道旅行~列車に乗って出かけよう (栗原)
6/20 (水) 韓国料理はなぜ赤いか~肉食の歴史(八田)
7/11 (水) 薬食同源~健康と美容の秘密(八田)
7/25 (水) バスでめぐる地方の旅(栗原)
8/29 (水) 郷土料理で巡る朝鮮半島~北部編(八田)
9/19 (水) 郷土料理で巡る朝鮮半島~南部編(八田)

※お申し込みは先着順ではありません。期間中にお申込みいただいた分は全て同着となります。その際、定員を超えた場合は抽選になります。
※実施日、内容及び講義時間はやむをえない事情や講師の都合により変更することがございます。
※本講座は総合的な判断の元、定員を超えて受け入れる可能性があります。

【申込期間】3月10日(土)~3月24日(土)
インターネット・電話・江東区内文化センター窓口にて

【お問合せ・主催】 江東区亀戸文化センター
〒136-0071東京都江東区亀戸2-19-1カメリアプラザ5階 TEL:03-5626-2121
http://www.kcf.or.jp/kameido/
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すでにお知らせしている直近のイベントについても再掲します。
第11回「八田・本田の楽しい韓食ナラ」は3月24日(土)に開催。
次回はみんなでタットリタン(鶏と野菜の辛い鍋)を作ります。

上の写真は、本田先生から頂いたレシピで僕が先日作ったもの。
パパッと手軽に作れた割に、味わいは本格的でした。
自宅での夕食用、あるいはおもてなし用などにもよさそう。

当日はマッコリ飲み放題に加え、お土産、抽選会もありますので、
ぜひ気軽にご参加のうえ、タットリタンをマスターしてください。

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★第11回「八田・本田の楽しい韓食ナラ」(タットリタン)

■日時:2012年3月24日(土)15時~17時 受付:14時45分
■場所:イドンカルビ
■会費:4000円
■主催:ケーテレコム株式会社

※みんなでタットリタン(鶏と野菜の辛い鍋)を作ります。
※マッコリ飲み放題、抽選会があり、お土産がつきます。
※エプロンを持参してください。
※終了後は有志で2次会も開催します。

【会場】
店名:イドンカルビ
住所:東京都新宿区新宿5-12-2
電話:03-3351-2057
最寄:新宿3丁目駅、東新宿駅より徒歩5分
http://r.tabelog.com/tokyo/A1304/A130402/13035516/

【参加申込み】
参加される方の住所・氏名・電話番号・メールアドレスまたは
ファックス番号を下記にメールしていただくか、お電話ください。

Mail: krisk1@k-telecom.co.jp
TEL : 03-6435-0899

参加費は下記口座まで事前にお振り込みください。
当日受付でのお支払いも可能ですが、参加応募多数の場合は
事前振込みをさせて頂いた方を、優先させていただきますので
あらかじめご了承下さい。

三菱東京UFJ銀行 目黒支店
普通 3819031 口座名:ケーテレコム (カ)
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もうひとつ、お知らせの再掲載。

すっかり歴史の専門家となって大忙しの佐野良一師匠と、
久しぶりにご一緒してトークイベントをさせて頂きます。

「朝鮮王朝登場人物と宮廷料理を語る会」

ということで、韓国の宮中料理をとっかかりにし、
朝鮮王朝の歴史や人物、当時の食文化を語れたらいいなと。
食の歴史をひも解くと、意外なところで有名な王様にぶち当たったり、
当時の国際的な背景が影響しているのに気付きます。

師匠との会は、往々にしてただの雑談になりやすいので、
その当たりに気をつけつつ、楽しい会にしたいと思います。

=========================
<1>2012年3月25日(日)
◎時間:午後3時開場、3時30分開始-5時まで。
◎会場:「韓国料理サムスンネ」
◎定員:25人
◎参加費
①イベントのみ参加=1000円
②イベント後の会場での交流食事会込み=5000円
◎会場アクセス
*住所/新宿区新大久保2-18-10
*電話/03-3207-1768
*地図サイト
http://www.samsoon.jp/about
(2回目会場よりも少し手前です)

<2>3月30日(金)
◎時間:午後1時45分開場、2時開始-3時30分まで。
◎会場:「新宿区大久保地域センター会議室B(3階)」
◎定員:30人
◎参加費:500円
*終了後の交流会などはありません。
◎会場アクセス
*住所/新宿区新大久保2-12-7
*電話/03-3209-3961
*地図サイト
http://bit.ly/w5jn5X
(1回目会場は、ここの手前)

<3>申し込み方法
◎タイトルは朝鮮と記入し、
文章でお名前、ご希望曜日(25日は食事会参加有無も)、
参加人数、ご連絡先を記入し下記メールまで。
当日、参加費をご持参下さい
(おつりのない方から受け付けます)。
htevent26@yahoo.co.jp
主催はメディア関係者の韓国好き韓流会事務局です。
=========================

12021404.jpg

もうひとつ、こちらは頂いた情報から。

先日、「とんいマッコリ」の酒造を訪ねた記事を書きましたが、
その酒造をみんなで見学しよう、という企画を金在浩さんから頂きました。

国内で甕を使ってマッコリを醸造しているところは希少なので、
せっかくの機会と、ここでもお声かけさせて頂きます。
僕も3月31日(土)の会に参加する予定です。

=========================

『とんいマッコリ醸造場 見学ツアー』
~造り立てとんいマッコリと、舌鼓韓食の宴~

■多古米を砥ぎ、蒸し・・全羅道伝統のとんい(甕)を無菌状態に・・
慶尚道名産の麦麹を加え・・発酵・・丹念に丹念に・・「とんいマッコリ」
の製造工程を、杜氏の実況・解説と共に、つぶさに見学致します。

■「とんいマッコリ」造り見学後は、超新鮮・造り立ての「とんいマッコリ」と、
社長直々に腕を振るう、絶品家庭料理の数々に、舌鼓を打ちましょう^^

場所:木川工房(http://makkoli.biz/) 

日時:2012年3月31日 土曜日 14時~17時
2012年4月 1日 日曜日 14時~17時
2度に渡り、実施致します

住所:千葉県富里市日吉台3-24-2
TEL:0476-85-8708
料金:5,000円

人数制限は、特に設けておりません。
お一人様でのご参加も、大歓迎ですアップ

成田駅を降りますと、コンビニの「NEW DAYS」がございます。
13時40分を目安に、「NEW DAYS」前に集合して頂ければ、車でお迎えにあがります。

■この時にしか味わえない、絶品韓国家庭料理キラキラ
  by 木川工房
◆宴用茹で豚
 ~宴の定番!柔らかくジューシー、旨みがふんだんに凝縮された、茹で豚です! 
◆キムチ盛り合せ
 ~これぞ手作りの美味しさです^^
◆チャプチェ
 ~こちらも宴の定番!彩り鮮やか、具材もたっぷり!
◆お祝いジョン盛り合わせ
 ~肉、野菜、魚・・ほくほくの衣焼き!
◆スペシャル魚介鍋! 
 ~体の芯まで温まる、特製鍋!匙が止まらなくなる事うけあい!!
   とんいマッコリとの相性も、抜群です!!
◆〆の麺
◆果物
  
とんいマッコリと共に、これら特製料理も、お楽しみくださいませ流れ星
また、とんいマッコリ誕生までの経緯、苦心や思い、情熱、今後の展望・・
お話を聴かれた後は、遠慮なく色々と、ご質問くださいませ!!

参加ご希望の方は、gyoujievent@yahoo.co.jp まで、
お名前と人数をご記入の上、ご連絡くださいませ。

皆様のご参加を、心よりお待ちしております!!
=========================

12031602.jpg

ここからはお仕事報告。

3月5日にiPhone/iPad向けポータル・アプリとして、
韓国専門の電子書店「BookGate☆韓国」がスタートしました。
韓国関連の電子書籍を購入、ダウンロードできるのみならず、
エンタメ、グルメなどの無料コラムも充実しております。

なによりその執筆陣が豪華ですね。

エンタメはK-POPライターの酒井美絵子さん。
ビューティーは韓国・美容ジャーナリストの上田祥子さん。
トラベルは旅行作家の山下マヌーさん。
ショッピングはおいしいしごと(韓麻木さん、柴田さなえさん)のおふたり。

そして、グルメは僕が担当しております。

週に1度のコラムを上記のライターが書いているので、
毎日、何かしらの記事が更新されているという感じですね。
iPhone/iPadをお手持ちの方は、ぜひダウンロードしてみてください。

BookGate☆韓国プレスリリース
http://www.kosaido.co.jp/press/2012/-iphoneipad-bookgateKorea.html

なお、上記のプレスリリースから購入可能な書籍も見られます。

早速、自分が書いた「新大久保コリアンタウンガイド」や、
昨年取材に行った「るるぶ済州島」あたりをダウンロードしてみました。
ガイドブック系は、持ち歩く手間が省けるので便利ですね。
購入できる本の種類も、今後どんどん増えていくとのことです。

12031603.jpg

そして、こちらは埼玉県戸田市で工場見学をしたときの写真。
新大久保の「ソウル市場」で販売されているサムゲタンは、
現在、こちらの工場にて厳重な衛生管理のもと生産されています。

そんな生産現場の潜入レポートを、「ソウル市場」が発行している、
フリーペーパー「cocofun」の3月号に書かせて頂きました。

ソウル市場
http://www.seoulichiba.com/

「ソウル市場」のレジカウンター後ろに置かれていますので、
近くまで足を運んだ方は、ぜひ手に取って頂ければ幸いです。
以前からの連載である「新大久保コリチャプキ」も掲載されています。

12031604.jpg

こちらは3月13日発売の「東京ウォーカー」。

「新大久保 新店続々でさらに混雑…穴場を利用して攻略セヨ」

という記事が掲載されており、その取材に協力させて頂きました。
紙面には顔写真入りで、僕のコメントも掲載されております。
新大久保の穴場店情報をぜひチェックしてみてください。

ここ最近、メディアの新大久保取材が活発化しており、
ありがたいことに新大久保の案内人をする機会が増えています。
関わった仕事について、下記に列挙させて頂きます。

まず、「サンデー毎日」の新大久保特集に協力しました。
3月11日号ですが、実際は先々週の発売号です。

サンデー毎日
http://mainichi.jp/enta/book/sunday/news/20120228org00m100005000c.html

毎日新聞夕刊の新大久保取材にもコメントを提供しました。
こちらは下記ページからネットでも読むことができます。

“韓流”ブームから10年-
駐日韓国大使と新大久保を歩く「近くて遠い国」つなぐ
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20120312dde012040008000c.html

3月14日(水)放映の「ヒルナンデス!」の新大久保取材に協力しました。
前後編に分かれており、後編は3月21日(水)に放映の予定です。

ヒルナンデス!
http://www.ntv.co.jp/hirunan/

そのほか、まだ未発表の新聞、テレビからもう2件。
こちらはいずれお知らせできる段階になったら、またお伝えします。
新大久保の盛り上がりは、本当にすさまじいですね。

ということで、ずいぶん一気にたくさんの情報を書きましたが、
当面の講座・イベント情報と、お仕事報告をまとめました。
2012.03.16.Fri 12:02 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(0)
コリアうめーや!!第264号

<ごあいさつ>
3月になりました。
2月は逃げるとはよくいったものですが、
本当に今年の2月は一瞬で過ぎ去りました。
閏年なので、例年よりは1日多かったはずですが、
それを感じさせないぐらいの超ドタバタ。
息つく暇もなく3月に突入という感じです。
しかし、2月は逃げるとだけ覚えていましたが、
この言い回し、1月、3月もあるんですね。
1月は行く、2月は逃げる、3月は去る。
いずれも語頭の文字にひっかけてあるのですが、
3月も去るかと思うと、もう呆然とします。
さて、そんな中で、今号のテーマですが、
ちょっとした取材の裏話を語ります。
同じ立場で共感できる人は少ないかもしれませんが、
韓国にかかわる人なら多少は役立つかも。
コリアうめーや!!第264号。
偉そうに成功譚を語る、スタートです。


<済州島で出会った楸子島の刺身!!>

初対面の韓国人に会ったら必ず、

「コヒャンイ オディセヨ(故郷はどちらですか)?」

と出身地を聞くようにしている。
ほんの世間話という感じで切り出すのだが、
これがけっこう効果的であることが多い。

僕は仕事柄、韓国の地方に出る機会が多く、
特にここ数年は郷土料理をテーマに取材をしている。

相手の出身地が、自分の行ったことのある地域なら、
そのとき食べた郷土料理の話で盛り上がれる。
行ったことがなければ、今後の参考として話を聞く。

自分の故郷を話題にされて嫌がる人は少ないし、
むしろ目を輝かせてあれこれ教えてくれる人が多い。

ひとしきり語った後には、座も和やかになり、
初対面とは思えない打ち解けた空気を作ることができる。
初対面の人から話を聞くことの多い僕にとって、
現場であみだしたテクニックのひとつである。

もちろん韓国料理に限らず、観光地や伝統芸能の話、
または出身有名人の話でも似た効果が見込める。

なお、この問いかけでいちばん盛り上がらないのが

「ソウルです」

というケースだが、
その場合は両親の出身地を重ねて尋ねる。

「ソウルです」
「ご両親もですか?」

と続ければ、両親もソウルという人は意外に少ない。
お母さんが全羅道の出身であるば、

「じゃあ、キムチも美味しいでしょう」

となり、お父さんの出身が釜山ということになれば、

「魚介料理がお好きでしょうね」

となる。

また両親の故郷であれば親戚がいることも多く、
その人自身も頻繁に訪れている可能性が高い。
様子を伺いつつ話に乗ってくるようなら、
そのままその地域の話題で盛り上がればいい。

最後に自分も両親もソウルというケースだが、
これはもう料理や観光地の話を振る必要がない。
親がソウル出身なら、3代続くソウルっ子であり、
時代的に見ても由緒ある家柄である。

すなわち両親もソウルというときは、

「それは、お金持ちの家系ですねぇ!」

のひと言がたいへんに有効。

日本語だと生々しい褒め言葉にも思えるが、
韓国語ではさほどいやらしくないので大丈夫。
郷土の話を嫌がる人が少ない以上に、
家柄を褒められて悪い気のする人もいない。

かくして初対面でも心の扉が開かれ、
僕の取材はスムーズに進行するのである。


せっかくなので実例をひとつ。

先日、とある取材に出かけたところ、
応対してくれた方が済州島の出身であった。

済州島は何度も行っているので、
僕にとっても得意分野の地域といえる。
身を乗り出して、さらに1歩踏み込んだ。

「済州島のどちらですか?」
「翰林(ハルリム)というところだね」

翰林といえば済州島の北西部に位置する集落。
観光地としては南国の雰囲気漂う翰林公園があり、
北部の離島に向かう連絡船もここから出ている。

特別にこの地域だけの名物料理は聞かないが、
近隣の高山(コサン)は有名なジャガイモの生産地。
甘味が強く味が濃いと、地元で評価されている。

そんな情報を脳内データベースから引っ張り出し、
いくつか投げかけてみるが、どうも反応が鈍い。
変だなと思い、

「おいくつまで済州島にいらしたんですか?」

と尋ねると、子どもの頃に引っ越したとのこと。
生まれは済州島でも、育ったのは別の地域ということだ。
ならば今度はその地域を尋ねるまで。

「いちばん長く暮らしたのはどこですか?」
「群山(クンサン)だね。大人になるまでいたよ」
「ああ、群山ですか!」

出身地を尋ねて相手の答えが群山であった場合、
鉄板の話題が「イソンダン」というベーカリーである。
ベーカリーとしては1945年創業と韓国でもっとも古く、
群山市民の誰もがこの店のパンを愛している。

青春時代までを過ごしたのならなおさらだろう。
改めて「イソンダン」の名前を出してみると、

「その店を知っているとは!」

と目を丸くしながらも満面の笑みに変わった。

「パンもうまいが、それよりアイスケーキだ!」
「子どもの頃はあれがいちばんのご馳走でねぇ……」
「店に行くたびにアイスケーキを食べたもんだね」
「おっと、アイスケーキってわかる?」

韓国でアイスケーキといえば昔ながらの棒アイス。
加えていうなら、スカートめくりの隠語でもあるが、
これは今回の話題とは関係がない。

ともかくも群山とアイスケーキ談義で盛り上がり、
その後の取材も和やかに進んだのだった。


あるいはこんなこともあった。

こちらは実際に済州島で取材をしていたときのこと。
済州市にある郷土料理の専門店に足を運んでおり、
その店はサバのスープが自慢であった。

年配のご夫婦が切り盛りする小さな店で、
知る人ぞ知る、という雰囲気がなんともよかった。
ちなみにこうした店でよく見られる光景に……。

・厨房でかいがいしく働くお母さん
・どーんと構えるお父さん

という図式があったりする。

この場合、取材の進め方にひとつコツがある。
店を実質的に回しているのは、たいていお母さんだが、
そこで情報を得るよりも、まずお父さんの攻略が先。

儒教の教えが生活規範として残る韓国では、
まず家長のお父さんを立ててこそ話が円滑に進む。
僕はタイミングを見計らいながら伝家の宝刀、

「コヒャンイ オディセヨ?」

をお父さんめがけて繰り出した。
すると、そこから意外な展開に転がった。

「出身? 楸子島だよ」
「ちゅ、チュジャド……ですか?」
「そう、楸子島」
「どのへんですか、それは?」
「楸子島はね、あっ!」
「!?」
「母さん、アレを持ってきなさい!」

楸子島をきっかけに何かを思い出したお父さんは、
厨房に入って行き、何かをお母さんに指示した。
戻ってきたのは10分も経過した頃だっただろうか。

「これも取材していきなさい、サワラの刺身だ!」
「サワラを刺身でですか?」
「そう、楸子島といえばサワラなんだよ!」

以下、お父さんの説明をまとめてみる。

いや、正確にはお父さんが興奮気味だったので、
お母さんの的確な補足も踏まえてのまとめだ。

・楸子島は済州島と全羅道の中間にある群島
・お父さんはその楸子島出身
・楸子島は釣りのメッカでいろいろな魚がとれる
・タイなども有名だけど、サワラは特に有名
・サワラの刺身は楸子島名物で絶品
・ウチの店はサバで有名だけど、サワラも自慢
・サワラは刺身がいちばんうまい

この時点でサバのスープは完全にカヤの外だった。


ということで、サワラの刺身から頂く。

サワラは韓国どこでも一般的な魚であるが、
刺身で食べるというのは極めて珍しい。
鮮度落ちが早く、身割れしやすいのが大きな理由だが、
楸子島名物の刺身は、なるほどというか……。

「冷凍!」

で出てきた。

韓国ではマグロの刺身もルイベのように冷凍し、
シャリシャリと半解凍の状態で味わう。
サワラの刺身も、お父さんいわく、

「これが楸子島式の食べ方!」

ということなので、現地でもそうなのだろう。
確かに冷凍しておけば寄生虫の心配もなくなる。

半解凍の刺身をワサビ醤油につけ、

「海苔で包んで食べるべし!」

とのことだったので、それに従う。
あるいは済州島の若い白菜で包んでもよいらしい。

食べた瞬間、ひやっとした冷たさを感じるが、
口の中の温度で、すぐにさらりと溶ける。
直後、どこかマグロのトロにも似た脂の味が広がった。
それでいて身がふんわりと柔らかい。

身の色が白いので、ビントロあたりが連想される。
となると、海苔との相性がよいのもよくわかる。
脂がさらりと溶けて、そこに海苔の風味が重なる感じ。

「これは旨いですね!」

興奮する僕の横で、お父さんは満足気であった。
もちろんお母さんもニコニコ顔である。


さて、以上が済州島における、

「コヒャンイ オディセヨ?」

の成功例である。

お父さんの心をつかんだだけでなく、
店の隠れた名物を発見し、新たな郷土料理に出会えた。
もちろんその後の取材もたいへん円滑に進んだ。
これはもう胸を張ってよいぐらいの事例であろう。

そして、すっかりカヤの外だったサバのスープだが、
こちらも絶品だったので簡単だが補足をしておく。

韓国語ではコドゥンオヘジャンクク。
下煮をしたサバを豪快にすりつぶしたうえで、
菜っ葉、豆モヤシと一緒に煮込んで作る。

味付けは味噌をベースにエゴマをたっぷり。
唐辛子油も加えて、こってりピリ辛に仕上げるのだが、
これがまた食べた瞬間から、

「サバ!」

と叫びたくなるほど風味の香る味わい。
サバの脂が、唐辛子油で倍加して濃厚さを生み出し、
それをエゴマが上手に中和してしつこくない。

済州島はサバの名産地であるが、こうしたスープは、
むしろ全羅道の南海岸沿いに多く見られるという。

聞くとお母さんは全羅南道海南郡の出身で、
子どもの頃に家でよく食べていた料理だそうだ。
ここでも故郷の情報がつながっている。

「コヒャンイ オディセヨ?」

は韓国人の心を開く魔法の言葉。

機会があれば、ぜひ実践してみて欲しい。
状況にもよるが、僕の個人的な経験上、
美味しいものに出会える確率はぐっと高まる。


<店舗情報>
店名:ソンミ食堂
住所:済州道済州市三徒1洞571-7
電話:064-751-1250

<リンク>
ブログ「韓食日記」
http://koriume.blog43.fc2.com/
Twitter
http://twitter.com/kansyoku_nikki
FACE BOOK
http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
スカートをバッとめくり上げたときの姿が、
棒アイスに似ているからアイスケーキだそうです。

コリアうめーや!!第264号
2012年3月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com

メールマガジン購読・解除用ページ
http://www.melonpan.net/melonpa/mag-detail.php?mag_id=000669
2012.03.01.Thu 16:23 | 韓食日記 | trackback(0) | comment(5)






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八田 靖史(八田氏@K・F・C)
美味しい韓国料理を探す毎日。コリアうめーや!!管理人。コリアン・フード・コラムニスト。ブログは2005年12月開設。